第12話「好きなことをやるヤツにしか、オリジナルは生まれねーよ!」の巻
●殺し屋からの贈り物!?
河原にシトシト、秋の長雨が降っています。
キリ助 「こう雨じゃ、みんなに歌を聞かせられないな。でも、こんな日だからこそ、新しい歌をつくるチャンスなんだ」
エンピツをなめながら譜面に音符を載せていく作業は、地味で頭を使う作業です。しばらくすると睡魔が襲ってきます。
キリ助 「ああ、まぶたが重くなってきた。この辺でちょっと休もう......」
キリ助がうつらうつらしはじめたとき、大きな影が迫ってきました。
迫る影 「よーやく、見つけただ」
キリ助 「!!!」
無防備だったキリ助はものすごい力で顔を押さえつけられました。まったく息ができません。何が起こったのか理解できないまま、ひたすらもがきます。
キリ助 「んーっ!」
キリ助は、渾身の力で顔をふさいでいたものを振りほどき、猛烈な力の主に目を向けました。
そこには、いままで見たこともない巨大なナメクジがいました。
キリ助 「だ、だ、だ、誰?!」
ナメクジ 「あーだーづーは、ヤマナメクジのなめ子っちゅーんだ」
キリ助 「か、か、顔を塞いで窒息させようとしたの?」
なめ子 「窒息? オラ、んなことしでねー。そもそもオメー、顔では息してねーべ」
昆虫類は、人間のように息を口からはしていません。お腹で息をしているので、本当はいくら顔を塞がれても窒息しないのです。
キリ助 「えっ!? ボク、鼻と口で息してないんだ。知らなかった。なら、君は何しに来たの?」
なめ子 「あだづは、オメーのファンだから、衣装つくってきただ。ホレ、これ見てみ」
なめ子が差し出した黒のタキシードは、全身がピカピカと光る、今までに見たことのないものでした。
●特別な人なんていない
キリ助 「そうだったんだ。すごくきれいなタキシード、どうもありがとう!」
こうしてキリ助は、光輝くタキシードを受け取りましたが、
ネチャ......。
キリ助 「ねぇ、このネチャネチャしたものは何?」
なめ子のタキシードは、触るとネットリとして、とても不気味な感触でした。
なめ子 「あだづの体液だ。ピカピカして美しいべ?」
キリ助 「......」
ナメクジは乾燥に弱い生き物なため、体が乾かないよう、非常に粘り気のある体液を体から出しています。
その体液は乾燥しはじめるとキラキラと輝き、とても美しく見えるのです。
なめ子 「どころで、どーやったらおめーみたいに、みんなが喜んでくれることができるんだ? オラもおめーみてーに活躍してーだ」
キリ助 「きっとできるようになると思うよ」
なめ子 「オラにもか?」
キリ助 「うん。なめ子さんは毎日何してるの?」
なめ子 「エサ食ってるだ」
キリ助 「ほかの時間は?」
なめ子 「寝てるだ」
キリ助 「......」(-_-;)
なめ子 「そんな話じゃなぐで、どーしたらオラにしかできねーようなことができるだ?」
キリ助 「正直いって、ボクにはわからないよ」
なめ子 「そら、オメーは、特別だがらスゲーんだな」
キリ助 「特別なんかじゃないよ。ボクのことなんて、『変な奴』としか見ない人たちも大勢いるよ」
なめ子 「でも、ファンもいっぱいいるでねーか」
キリ助 「そんなの最近の話だよ。ボクもこの間まで、自分にしかできないことなんて、全然わからなかったんだから」
なめ子 「何で自分にしかできないことがわがったんだ?」
●自分にしかできないことの見つけかた
キリ助 「『自分にしかできないものは何か?』って考えなかったからだよ」
なめ子 「なら、何を考えでたんだ?」
キリ助 「『自分は今日何ができるか』を考えてた」
なめ子 「今日?」
キリ助 「誰もやってないことをやるんじゃなくて、誰でもできることをやることのほうが、大事だと思うんだ」
なめ子 「意味がわがらねーだ」
キリ助 「ボクは普通の人よりも歌がヘタだったんだけど、誰かに歌を聞かせることからはじめたんだ」
なめ子 「んな歌、誰も聞きたくねーべ」
キリ助 「うん。最初は、みんなに『ヘタ!』って言われ続けたよ」(^^;)
なめ子 「よく落ち込まなかったな?」
キリ助 「落ち込んだよ。でも、そのたびに多くの人たちから、たくさん勇気が出るヒントを教えてもらったんだ」
なめ子 「おめーは、その教わったことを歌にしてるだか?」
キリ助 「そう。教わったことを歌にしていたら、知らない間にそれがボクの特長になっちゃった。最初から計算してたわけじゃないんだ」
なめ子 「じゃあ、あだづも歌を歌えばいいだか?」
キリ助 「いや、そうじゃないよ。なめ子さんが好きなことをやればいいと思う」
なめ子 「何でだ?」
キリ助 「好きなことをやらないと、長続きしないでしょ?」
なめ子 「そが。好きなことだったら、地味な作業でも飽ぎねーしな」
キリ助 「うん。好きなことを誰でもできるレベルからはじめれば、いつか自分にしかできないことがわかってくると思うんだ」
なめ子 「今日はおめーに会いに来た甲斐があっただ。オラ、好きな人にピカピカ光る服をつぐってやることからはじめるだ」
キリ助 「そ、そうなんだ。が、がんばってね」(^^;)
キリ助は内心、『もらっても迷惑かも』と思ったのですが、失敗や挫折もいい経験だと思って、余計なアドバイスはしませんでした。
雨の日のできごとでした。
絵/山元かえ
※お話を作る背景になった虫の詳しい生態の話などは、著者のホームページに載せてあります。興味のある方はごらん下さい。
http://www.nextstandard.jp/category/1264785.html
次回は、6月1日(月)の更新です。お楽しみに!
















