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第9話「今が好きじゃないヤツは、一生ジゴクだ!」の巻

●業界初は大変だ!

 

秋の気配が深まり、河原には赤とんぼが空を切るように飛び始めました。キリ助は、自らの体験から学んだことを歌にしようと一生懸命歌をつくっているようですが、はたして進んでいるのでしょうか。

 

 

キリ助 「う~ん、一行も書けない......」_||

 

 

昆虫が歌う目的は、大きく分けて2つあります。ひとつは、『求愛』。これはキリ助が今まで歌っていたラブソングのことです。そして、もうひとつは、『オス同士の威嚇』のため。ですから、生き方を伝えるために歌を使うことは、虫の世界にとってみれば初めてのことなのです。

 

エンマ 「やぁ、チビ助君。こんなところでお昼寝かい?」

 

キリ助 「違うよ!」(#`Д´)

 

エンマ 「懲りずにまた野外ライブイベントに申し込みをしたんだって? 君の下手な歌を聞きたい人なんていないんだから、棄権したほうが身のためだよ」

 

キリ助 「うるさいな。 邪魔だからあっち行けよ!」

 

エンマ 「ははは。言われなくとも行くさ。君なんかに構っているほど暇じゃないからね。あっ、そういえば1週間前、君と野外ライブの受付窓口で会ったとき、ヨボヨボのテントウムシの婆さんが君のことを遠くから見ていたけど知り合いかい?」

 

キリ助 「テントウムシ?」

 

エンマ 「変な者同士、つながっているのかなと思ってね。それじゃまた」

 

キリ助 「ローズかな? 恐くて性格悪いお婆さんだったな。なにか用があったのかな?」

※著者註:7話を参照してください。

 

●自分のやりたいこと、見つけた

 

キリ助はアイスキャンディーの棒と落ち葉でできたオンボロの家を訪ね、ドアをノックしました。

 

 

キリ助 「留守かな?」

 

 

試しにドアノブを回してみると、ドアはギッ~っという不吉な音を立てながら開きました。

 

 

キリ助 「あれ、鍵がかかってない......。ローズ、いるの~?」

 

 

2週間前にキリ助が掃除をしたばかりですが、またピアノの上は物置と化していました。

 

 

キリ助 「あーあ、せっかくのトロフィーも、表彰式の写真も、また砂ぼこりだらけだ......。この家、建てつけが悪すぎるから砂が入ってきちゃうんだな」

 

 

キリ助は、掃除をしながらローズの帰宅を待つことにしました。ピアノを掃除し、台所を片づけ、ベッドの掃除をしようと、ふとんに手をかけたところ、ふとんがモゾッと動いたのです。

 

 

キリ助 「うわっ、ふとんが動いた!」( ;゚ロ゚)

 

ローズ 「誰かそこにいるのかい......?」

 

 

力ないローズの声が聞こえました。

 

 

キリ助 「寝てたんだ。おどかさないでよ」

 

ローズ 「その声はキリ助だね。勝手に入ってくるんじゃないよ」

 

キリ助 「ご、ごめん。それよりも具合いが悪いの?」

 

ローズ 「寿命だよ。目も見えなくなっちまった」

 

キリ助 「そりゃ、大変。すぐに病院行かなきゃ!」(゚Д゚|||)

 

ローズ 「無駄さ。言ったろ、寿命だと。ところで、歌は捨てたのかい?」

 

キリ助 「......捨てようと思ったけど、捨てられなかった。でも、捨てたものもあるよ」

 

ローズ 「何を捨てたんだい?」

 

キリ助 「ラブソングさ。みんながラブソングを歌っていたから、ボクも当たり前のようにラブソングを歌ってた。でも、本当にやりがいがあると感じたのは、自分の失敗から学んだことを歌にして伝えることだったんだ」

 

ローズ 「そうかい。自分のやりたいことを見つけたんだね」

 

キリ助 「でも、誰もやっていないことだから、どうやってつくっていいのか全然わからなくて......」

 

ローズ 「それで来てみたら、このザマだったんだね。まさに『虫が知らせた』のかもしれないね。ひゃっひゃっひゃ

 

キリ助 「ごめんね。具合いが悪いことなんて知らなくて」

 

ローズ 「残念だけど今のアタシじゃ、お前さんに教える体力がないよ」

 

キリ助 「ボクね。ローズとか、みんなに教えてもらって、前に進めば進むほど、前よりももっとダメな自分に気づくんだ」

 

ローズ 「自分がダメなことを自覚してるのに、ダメな自分に傷つくなんて、本当にアンタはダメなキリギリスだね」

 

 

部屋の中には木漏れ日が差し込みローズの全身を光が包みます。さっきまで単なるほこりだった細かいチリが、木漏れ日でキラキラと輝き出し、キリ助は、まるで天の上にいるかのような錯覚をおぼえました。

 

 

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●大切なのは過去でも未来でもなく

 

 

ローズ 「せっかくだ。ここらで話してもいいかもしれないね......。アンタはこの前、アタシに『何で歌手を続けなかったのか?』と聞いてきたね」

 

キリ助 「う、うん」

 

ローズ 「コンクールを総なめし、歌もヒットして、ちやほやされた時代もあった。でも、その後で、まったく売れなくなったんだ。頑張れば頑張るほど、周りからはあがいているように見えて、散々陰口を叩かれたよ」

 

キリ助 「プライドを傷つけられたんだね」

 

ローズ 「今までちやほやされた分、ダメな自分を見るのが恐くてね。それからだよ、目立たないように生きてきたのは」

 

キリ助 「だからこんなへんぴなところで教室を開いていたんだね」

 

ローズ 「でも、このうまくいかないときが、飛躍するチャンスだったんだ。体が動かなくなってから気づくなんて、まったくしょうがないよ」

 

キリ助 「まだまだあきらめないでよ。ボクにもっといろいろ教えてよ!」

 

ローズ 「もうだめさ。それにあたしゃもう疲れた。でも、ひとつだけ言える。憧れとか理想は確かに大事だ。でも、未来ばかり見ていると、今の自分とのギャップに苦しむ」

 

キリ助 「今のボクだね。自分のダメなところばかりを見ちゃうんだ」

 

ローズ 「そうなると今度は、過去の自分を悔やみ始めるだろ?」

 

キリ助 「そうなんだ。野外ライブで人が来なかったこととかライバルの成功とか、今でも夢にうなされることがあるよ」

 

ローズ 「いいかい。大切なのは過去でも未来でもなく、『今が好き』と思えることさ」

 

キリ助 「今」

 

ローズ 「『あるべき理想像』を基準に考えて、足りてない自分をいくら嘆いても仕方ないじゃないか。『今』から一歩ずつ進むしかないだろ?」

 

キリ助 「うん......」

 

ローズ 「過去の自分を責めても始まらない。『今が好き』と割り切れば、過去の嫌な思い出も、全部、必要なできごとだっただろ?」

 

キリ助 「うん......」

 

ローズ 「あたしゃ、ダメなお前さんが一歩ずつ前進する姿が気に入ってた。歌のうまさを超える魅力があった。だから、何度かお前さんの様子をこっそり見に行ってたんだ」

 

 

今まで、「ダメな奴」とばかり言われていたキリ助は、初めて自分の歌と生き方を認めてもらったことで、すべてが報われたような気がして、体中に熱い気持ちがこみあげました。むせび泣くキリ助を横に、ローズは話を続けます。

 

 

ローズ 「『今が好き』だと思える大切さを教えてくれたのは、お前さんだよ。死ぬ間際になって、ようやく自分を許せた。これで安心してあの世に逝ける。ありがとう......」

 

キリ助 「逝っちゃダメーッ!!!」

 

 

キリ助の声もむなしく、ローズが再び言葉を発することはありませんでした。

どれだけ時間が経ったのでしょう。ローズを照らしていた木漏れ日も、いつの間にかオレンジ色の夕日になっていました。

 

 

キリ助 「ボクはまだ、できていないところだらけだけど、それでもいいんだよね。『今の自分』から、一歩ずつ進んでいくよ。ありがとう、ローズ」

 

 

ダメな自分も含めて、「それでも自分はよくやっている」と思えるようになったキリ助は、静かにローズの家をあとにして、新たな一歩を踏み出しました。

 

 

 

絵/山元かえ

 

※お話を作る背景になった虫の詳しい生態の話などは、著者のホームページに載せてあります。興味のある方はごらん下さい。

http://www.nextstandard.jp/category/1264785.html

次回は、4月20日()の更新です!

 






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著者プロフィール

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齊藤正明
さいとう・まさあき