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第2話「進化の反対は退化じゃねーよ!」の巻

●土に溺れる大ミミズ

 

夜半まで降っていた雨もあがり、朝の河原にはたくさんの光が降り注いでいます。でも、キリ助は浮かない表情。土手の上のアスファルトに腰掛けて、川面を見つめながらため息をついています。

 

キリ助「はぁ~。あれから3日もがんばっているのに、歌が全然売れない......」

 

キリギリス「あっ、キリ助くんじゃないか! 久しぶりだね、元気?」

 

声をかけてきたのは、幼なじみのテッティーでした。気の弱いテッティーを見た途端、キリ助は『歌を売り込むチャンス』だと思いました。

 

キリ助「テッティー! ちょうどよかった、ねぇ、僕の歌を買ってよ。5曲でいいからさ」

 

テッティー「えっ? なんなの、藪から棒に?」(; ̄д ̄)

 

キリ助「絶対いい歌だから、ねっ、ねっ!」

 

テッティー「ご、ごめん! いまちょっと急いでいるんだ」

 

キリ助「おーい、ちょっと待ってよー!」

 

テッティーは深い草むらに走り出しました。逃してなるものか。キリ助も一生懸命に追いますが、脚力に勝るテッティーにどんどん離されていきます。息が上がったキリ助は諦めて、また土手の上に戻ってきました。

 

キリ助「あーあ、テッティーにも嫌われた。ボク、やっぱり何をやってもダメかもしれない」

 

そのとき、キリ助の肩を力なく叩く者がいました。振り向いてみると、30cmをこえる大ミミズがグッタリと横たわっています。

 

ミミズ「そ、そこの、お若いの。ワシを助けてくれぬか?」

 

キリ助「うわっ、でっかいミミズ!」

 

ミミズ「ワシはこのあたりの長老でミミ(じぃ)と呼ばれておる。体が乾いてきて動けぬ。どうか日陰に運んでもらえぬじゃろうか?」

 

キリ助「(な、何だかわからないけど、弱っているみたいだから、歌を売り込むチャンスかも!)それは大変だね。今、ボクの歌で元気づけてあげる! 名づけて『キリ助ラブソング・ベスト・セレクション』。気に入ったら買ってね!」

 

- 歌い続けること5分 -

 

●ミミズが道で干からびている理由

 

キリ助「ボクの歌はどう? 最高でしょ? ......って、あれ、生きてる?」

 

ミミ爺は、完全にのびきってピクリとも動きません。キリ助はようやくただごとではないと気づき、ミミ爺を日陰に移します。

 

キリ助「ミミ! ミミ! しっかりして!」

 

キリ助は、ミミを激しくゆすりますが、意識は戻りません。

 

キリ助「全然ダメだ......。そういえば、『体が乾いて動けない』って言ってたよね。カップ麺みたいに、お湯をかけたら元通りになるかも。やっぱりボクって頭いい!」

 

キリ助は、シュンシュンと音を立てて沸騰する熱湯を、ヤカンに入れて持ってきました。

 

キリ助「ミミ、早く元気になって!」(^^)v

 

キリ助は、何のためらいもなく、熱湯をミミに注ぎます 

 

ミミ「熱っ!!!!」 ( ;゚ロ゚)/

 

キリ助「元気になったんだね。よかった~!」

 

ミミ「ホントに死ぬわ!!」 (#`Д´)

  (※著者註:本当に死にますから、やらないで下さいね)

 

キリ助「ところで、ミミは、干からびるのがわかってて、なぜアスファルトに出てきたの?」

 

ミミ「土の中で溺れてしまったのじゃ」

 

キリ助「はっ?」

 

 

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ミミズは皮膚で呼吸をしている生き物です。土の中に雨水が染み込み過ぎると呼吸困難になります。そこで地表に一時避難をして土が乾くのを待ちます。その際、土よりもミミズのほうが先に乾いてしまうと、ミミ爺のような悲劇に見舞われることがあるのです。道路に干からびたミミズがたくさんいることがあるのはこうした理由なのです。

  (※著者註:雨の後ミミズが地上に出てくる理由は諸説あります)

 

キリ助「あっはっは! まぬけだね。ミミズって手足がない原始的な生き物だから、いろいろと不便なんだね」

 

ミミ「ミミズが原始的? それは勘違いじゃ。ワシらは進化してこの形になった」

 

キリ助「えっ?」

 

ミミ「ミミズはもともと手足も頭もあるゴカイのような生き物じゃった。でも、土の中で暮らせるようになってからは、手足なぞないほうがスムーズに移動できたんじゃ」

 

キリ助「ふーん。手足はあったんだね。でも、手足がなくなったなら、やっぱり退化じゃない?」

 

ミミ「退化と呼ぼうが、進化と呼ぼうが、どっちでも構わん」

 

キリ助「そんなのズルイよ! 進化は発達することで、退化は衰えることでしょ?」

 

●カタツムリからナメクジになろうとしてるヤツがいる

 

ミミ「ほう。では、カタツムリとナメクジは、どちらが進化をしておると思う?」

 

キリ助「どっちもどっちかな」

 

ミミ「コラッ!」(#`Д´)

 

キリ助「ごめん、冗談だよ。カタツムリのほうが進化してるよ。殻があったほうが乾燥にも強いし、鳥に襲われても殻に入ってれば安全じゃないか」

 

ミミ「ふぉっ、ふぉっ。そう言うと思ったわい」

 

カタツムリは殻があるために、ナメクジに比べると乾燥に強い生き物です。しかし、殻を作るためには多量のカルシウムが必要になるため、カルシウムの少ない場所では生きることができません。その点、ナメクジはカルシウムを必要とする量が少ないので、生息範囲を広げやすいのです。

 

ミミ「今カタツムリの中には、殻を捨てナメクジに変化をしようとしておる種類が結構ある。もちろん、すべてのカタツムリがナメクジにはならんじゃろう。ナメクジにもカタツムリにも、それぞれの長所短所があるからの」

 

すべての生き物は、進化をしても退化をしても、新しい長所と短所が生まれてきます。このことは人間の性格についても同じことが言えるかもしれません。最近は、『前向きな人が、そうでない人よりも(仕事的に)優れている』という傾向があります。しかし、前向きな上司は、落ち込んでいる部下の気持ちを汲み取ることが難しく、「そんなことでクヨクヨするな! もっと前向きに生きたらどうだ」などと声をかけて、上司と部下の溝を余計に深めてしまうことがあります。ですから、前向きではない人のほうが、他人の気持ちを思いやる能力があることもあるのです。人それぞれが、それぞれの性格を持っていればよく、無理に矯正する必要はないのです。

 

キリ助「結局、進化って何なの?」

 

ミミ「変化をしただけじゃ。世間が思い込んでいる『より完璧に近づく』という意味とは、まったく違う。じゃから、進化と退化は本質的には同じ意味になる。国語の辞書には、進化と反対の言葉は退化と書いておるが、生物の観点から見ると、完全に間違いじゃ」

 

キリ助「進化をしたことが弱点にもなるからね......」

 

ミミ「ミミズは手足をなくしたおかげで、手足のケガがなくなったし、土の中ではスムーズに動ける」

 

キリ助「その代わり、今日みたいに乾いて死にそうになるという短所もできたんだね」

 

●すべての者には、自分にしかできない才能がある

 

ミミ「ところでキリ助。お前は最初、ワシのことを『劣っている生物だ』と思って、話しかけておらんかったか?」

 

キリ助「正直、そう思ってたかも......」(-_-;)

 

ミミ「ミミズもキリギリスも人間も、すべての生き物には、長所と短所がある。しかしそれが、『こっちの生物は優れていて、あっちの生物は劣っている』ということとは一切関係ない。おのおのが違うだけじゃ」

 

キリ助「人間は頭がいいのは長所だけど、それが短所になって、環境を壊したり戦争をしたり、自分たちで絶滅しようとしてるようにも見えちゃうからね」

 

ミミ「キリ助らキリギリス同士にも言えることじゃ。『コイツなら気が弱いから言うことを聞くだろう』と無理に歌を売ったりしてはいかんぞ。たとえ相手に気が弱いという短所があっても、脚力があるという長所があれば、いざケンカになったときお前はけり倒されてしまうぞ」

 

キリ助「(どきっ)」

 

ミミ「『コイツは自分よりも劣っているな』と思ったとき、それは間違いなく相手を正しく見ておらん。自分の都合で勝手に思いこんだだけじゃ。逆に、『自分以外の人はみんなすごい』と思うのも錯覚じゃ。すべての者には、自分にしかできない才能が必ずある。しかし、その才能がどこにあるかは自分で見つけないといかんのじゃ。わかるの?」

 

そう言って、ミミ爺はキリ助に優しくほほえみかけました。

 

ミミ「さて、また体が乾いてきたようじゃ。そろそろ土に戻るかの」

 

キリ助「ミミ、ありがとう! ボクも自分の才能を見つけてみせるよ。ところで、体だけでなく心も渇いてない? 心の渇きならボクの歌で......」

 

ミミ「渇いちょらん!」(#`Д´)

 

そう言って、ミミ爺は"足早"に土の中に戻っていきました。キリ助は、今日も歌を売ることはできませんでしたが、ひとつ大切なことに気づいてすがすがしい気分です。『キリ助の才能』、それはキリ助自身もわかっていないことです。この先、歌を売っていく経験の中で、自分の才能に気づいていくのかもしれません。

 

 

絵/山元かえ

 

※お話を作る背景になった虫の詳しい生態の話は、著者・齊藤のホームページに載せてあります。興味のある方はごらん下さい。

http://www.nextstandard.jp/category/1264785.html

 

 

[参考図書]

あさりよしとお「まんがサイエンスⅩ」(学習研究所)

Newtonムック「身近な"?"に答えます」(ニュートンプレス)






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著者プロフィール

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齊藤正明
さいとう・まさあき