第二十回 森本留美さん(仮名、41歳、ラグジュアリーブランドPRマネージャー)
~「ヒャッホー !」気分で
毎日を過ごしていた、あの時代〜
大学は「待ち合わせ場所」。
男友達の車で海へ! ディスコへ!!
ラグジュアリーブランドのPRマネージャーを務め、仕事仲間から「美しくて性格も良くて遊び上手」と噂の森本留美さん(41歳)を紹介してもらうことになった。
取材場所は、森本さんがすすめてくれた麻布十番のイタリア料理店。待ち合わせの十分前から席で待っていると、四十代とおぼしき男性たちとちょっと派手なワンピース姿の女性たちが「大人合コン」を始めた。名前も聞いたことのない高級外車の話で盛り上がっている。こんな不況下でも「バブル」が続いている人たちもいるんだなあ。
「ごめんなさーい。遅れちゃって~!」
15分ほど遅刻して森本さんが現れた。黒を基調としたシックな服装だが、表情と声色がにこやかで人なつっこいので明るく華やかに感じる。都内の女子大を卒業したのは1990年。ということは、学生時代はバブル経済真っ盛りだったんですね。
森本 そうね~~。とにかく遊んでました。大学は「作戦会議」と「待ち合わせ場所」だったから。学食に行けばいつでも友だちがいた。教室にはあまり入りませんでしたね(笑)。
大宮 最近の大学生は授業への出席率が異常に高いらしいですよ。知り合いの大学教官が「受講している学生の半分ぐらいは出席しないだろうと思っていたのに、ほぼ全員が出席するので教室に入りきらない。困る!」と憤慨していました。
森本 ダブルスクールで資格を取る人も多いみたいですね。すごいなあ。堅実!
大宮 小さくまとまっていて、つまらないとも言われますけどね。みんな将来が不安なんですよ。森本さんは学生時代に何を考えてましたか?
森本 何も考えてません!(笑)。とにかく"今日は何をして遊ぼうかな"で頭がいっぱいだから。
学校に行って作戦会議を終えるころには、男の子たちが校門まで車で迎えに来てくれている。私は海が好きだから、よく海に行っていたな。夜はディスコ。
大宮 それって週末だけの話じゃないですよね。
森本 毎日よ。毎日が「ヒャッホー!」という気分でした。
大宮 「ヒャッホー!」かあ。明るくていいですね......。就職活動はしなかったんですか?
森本 ほとんどしませんよ。働くつもりがなかったから。
私の同級生の多くは専業主婦。同窓会をやると、「あなたがいまでも働いているなんて学生時代は想像もつかなかった」と驚かれます(笑)。
大宮 よっぽど勤勉なイメージとはかけ離れていたんですね。
森本 「海外の仕事ができそう」という理由だけで入社した銀行を、一年で辞めてしまいましたからね。
大宮 どんな業務内容だったんですか?
森本 ええっと...。(途端に冴えない表情になって説明をする森本氏)
大宮 あ、もういいです。森本さんが興味ないことはよくわかりました(笑)。銀行で働いていたころもそんな感じだったんでしょうね。
森本 はい。上司がいい人だったので助かりました。
あまりに仕事がつまらないので、入社して半年後ぐらいに「辞めたいと思ってます」と相談したら、「いつ言い出すかと思っていたよ。君は別の場所で活躍すべきだ」と。
部下が辞めると自分の査定に響くのに、イヤな顔をせずに背中を押してくれました。
大宮 いい人ですねえ。銀行を辞めて後悔はしませんでしたか?
森本 全然。それでいまの仕事に出合えたんだから。優遇金利で貯金をしなかったのはちょっともったいないけれど。
大宮 銀行員って、自行の口座にお金を預けると金利がいいんですよね。
森本 当時は定期預金だと八%ぐらいの金利でした。優遇金利でさらにプラス。
大宮 初任給でも預けっぱなしにしておけば、いまごろちょっとした財産になってましたね。森本さんは?
森本 私の普通口座は常にマイナスだったと思います。
というか、いくら残っているのかも知らない。通帳記入もやりません。私、いまでも通帳は持ってませんよ~~。
大宮 潔いですね!(笑)
お金を使わないと絶対に得られないもの
大宮 さきほど海が好きとおっしゃってましたけど、いまでも海に遊びに行くんですか?
森本 ほとんど毎週末は神奈川県の海で過ごしてますよ。平日は都心で働き詰めなので、気分転換をしたくなるんです。サーフィンをしたりバーベキューをしたり。
大宮 アクティブですねえ。高級ブランドのPRの仕事だと、いろいろ楽しいこともあるんじゃないですか?
森本 自慢話はしたくないので詳細は言いませんけど、私が一緒に仕事をしているマスコミ業界はずーっとバブルみたいなものですよね。
大宮 確かに。ここ数年は急速に状況が厳しくなってますけどね。雑誌の廃刊も増えています。ファッション業界も大変そうですよね。有名デパートが相次いで閉店しています。ユニクロの一人勝ちが続くのでしょうか。
森本 確かに安くていいモノもあるけれど、基本的にはモノやサービスの品質は値段に比例すると思いますけどね。
私は自分が担当しているブランドの品質に自信がありますよ。使ってみれば違いがわかります。
大宮 逆に言えば、使わないとわからない、ということですよね。
森本 だからこそ、必要なときはお金を使って体験をすべきなんですよ。私は後輩たちにも「残業なんてしなくていいから、早く仕事を切り上げて遊びに行きなさい!」と言ってます。
大宮 めずらしい先輩ですね(笑)。
森本 たとえばこのお店。決して安くはないけれど、すごくおいしいでしょう。インターネットでお店の名前や評判を知っているだけじゃ意味がないの。ちゃんと自分のお金を払って食べたからこそ、よさがわかるでしょ。
大宮 そうですね。でも、バブル期の若い女性はおごられまくっていたんじゃないですか?
森本 おごってもらったこともありますけど、だんだん自分で深めたくなってくる分野が出てくるでしょ。私は二十代のころからどんどんお金を使って遊びに行ってましたよ。親のお金も使ったけど(笑)。
瀬里奈(六本木の高級和食店)でしゃぶしゃぶをした後、ワインバーでシャンパンやワインを開けて、一晩で七、八万円も使っちゃうこともありました。
大宮 洋服もたくさん買っていたんでしょうね。
森本 お洋服は金額を見ないで買っていました。当時流行っていたヴェルサーチのお店でミニスカートを気に入って、うっかり買ったら三十万円(笑)。
でも、失敗してもいいんです。経験が何より大事なんだから。お金は手段に過ぎないの。使わないと意味がない!
大宮 お金を使え、とずいぶん強調しますね。
森本 安上がりの遊びを否定するつもりはないけれど、お金を使わないと絶対に得られない経験もあるから。
それに、お金を使うことってある意味では投票と同じでしょ。あなたの商品のファンですって。
たとえば、食材。いくら安くても添加物だらけの食べ物でいいの?って聞きたくなる。
手間ひまかかっている安全でおいしいものは少しぐらい高くて当然。いまの日本は食料品が安すぎるのよ。おかしい!
大宮 そうですね。あんまり安物買いばかりしていると、環境破壊や雇用破壊だけではなく、国の文化とか自分の身体感覚までも失っていく気がします。
蔵元巡り。地元名士と郷土料理を肴に・・・・・・
大宮 海遊びの他に、最近のマイブームはありますか?
森本 日本酒よ、日本酒! ワインもいいけれど、蔵元巡りができる日本酒が超楽しい!
大宮 蔵元巡り?
森本 東京で開かれている試飲会で蔵元の方にお会いしたりするでしょ。おいしかったら「今度遊びに行かせてください!」ってお願いするの。たいてい歓迎してくれますよ。
大宮 日本酒は全国各地で造ってますからね。
森本 それぞれの歴史と物語がありますよ。実際に現地に行って、いろんな話を伺いながらできたてのお酒を飲ませてもらう。最高に楽しいですよ。
大宮 そんなに喜んでくれたら、蔵元の人もうれしいでしょうね。
森本 蔵元ってその地域の名家だから、地元のいい料理店も知っているんですよね。
大宮 そこでまた飲むんですね。地元名士と郷土料理をにうまい酒を飲む。極楽だなあ。でも、お店ではごちそうしてもらえたとしても、旅費は自分持ちですよね。
森本 そういうお金を惜しんじゃダメだと思う。特に二十代三十代のうちは自分をかわいがらなくちゃ。
大宮 自分をかわいがる?
森本 そう。自分がどんなサービスを味わったらうれしいのかは自分が一番よく知っているはずでしょ。そのツボにはたっぷりお金をかけてあげる。その経験はきっと将来返って来るわよ。
大宮 何が返って来るんでしょうか。お金? 僕は楽しい経験をした後も「無駄遣いしちゃった」と暗い気分になることが多いんです。
森本 「このスクールに行けばこのスキルを学べる」みたいな投資とリターンが一対一の関係じゃないんですよ。むしろ、見返りは期待しないで、ただ楽しくお金を使ったほうが、結果としては見返りが大きい気がします。
大宮 ほほー。
森本 たとえば、一流品の時計を家電量販店ではなく正規のお店で購入する。メンテナンスなどのサービスをしっかり受けることができますし、顧客向けのイベントに呼ばれたりしますよ。そこでいままで知らなかったような魅力的な人々と出会ったり。どんな商品やサービスでも同じだと思います。
同じ商品だからといって金額を比べてネットで購入するなどといった、モノだけありきの購買行動では豊かな経験は得られませんよ。
大宮 考えてみると、ネットや量販店での買い物には「遊び」や「道楽」の要素が少ないですね。売る側も買う側も効率優先、というか。
森本 私の世代と職業は確かにラッキーでした。仕事でも遊べる機会が多いから。でもね、いまの時代だからこそみんなが遊ぶべきだと私は思う。
自分のお金で遊べば、得るものがすごく多いから。二十代三十代のうちは貯金なんてしないで「経験」を買わなくちゃ。
大宮 四十代はどう過ごそうと思っているんですか?
森本 自分のためだけじゃなく、他人のために何かしてあげる年齢になってきたと感じています。だって、いままでさんざん遊んできたからね!
ワインをだいぶ飲み、やや千鳥足気味になった森本さん。別れ際に「気をつけて帰ってくださいね」と声をかけると、「はい!」と素直に答えるところがかわいらしかった。森本さんとのつき合いが長い編集Iによれば、「普段は説教めいた話はほとんどしない人。今日は企画趣旨に沿ってがんばって話してくれた」とのこと。
自分自身をたっぷりかわいがり、遊びも仕事も存分に味わい尽くしてきたからこそ、後輩たちを心から叱咤激励しようと思うのだろう。
お金を使って自分の体で経験しないと決して見えない世界がある――。バブル期に遊びまくり、いまでも楽しく生きている先輩からのちょっとまじめなメッセージである。こんな不景気な時代でも、人生の明るさは自分次第でどうにでも調節できるのかもしれない。
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取材中のイタリア料理店で、なぜかナンパされてた森本さん。
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