おんなじ3年間をキラキラ活きてる★~涙の数だけ成長してく心温まる物語(7)~
第7話 『使い古したバットとグローブ』
今でも覚えてる。小学2年生のとき、4時間目の授業の最中に、教頭先生に呼ばれていっしょに家まで帰ろうと言われた。家に帰ると、僕の家は真っ黒に焼けていた。
全部燃えてた。焼け焦げたイヤな匂いのするなか、僕は一番大事なバットとグローブを探したけど結局、見つからなかった。
その日、僕は野球を辞めた。バットもグローブも買うお金が両親になかったから。
その後、僕ら家族は埼玉に引っ越した。
中学2年生のとき、今度は両親が離婚して、母の実家に兄弟三人といっしょに千葉に引っ越した。 落ち込んでいた僕ら家族を、母の実家のおばあちゃんは笑顔で出迎えてくれた。
新しい暮らしが始まって夏になった。
おばあちゃんが、朝からずっとテレビの前に座り、じーっとテレビを見ている。
夏の甲子園の試合だった。
夕方遅くまで、試合が全部終わるまで観戦するおばあちゃん。
僕は聞いてみた。
「高校野球のなにが好きなの?どんなとこ見てるの?ルール分かるの?」
「この子たちの目を見てるんよ。キラキラ輝いていて、楽しそうで、みんなが一生懸命。そこがとてもいいんだね」
小学校のとき、野球を辞めざるを得なかった僕は、なんか面白くなくて、「野球なんかつまらないよっ」と言い、外へ飛び出した。ほんとは野球がしたかった。
もう一度バットを振ったり、ボールが投げたかった。
中学校の卒業式の前日、学校から帰ってきた僕は驚いた。
玄関に金属バットとグローブが置いてある。
「もう一度野球やりんさい」
おばあちゃんは笑顔でバットとグローブを手渡してくれた。
日々苦しかった生活の中、どうやってお金を工面したのか、分からなかったけど、ほんとうにうれしかった。
春、県立の高校に入学してすぐに野球部に入部。1年のときはずっと球拾いとか、走る、素振りする、キャッチボールするだけだった。
でも野球ができるだけで楽しくて、あっという間に2年生の夏が終わり、僕らの代の新チームになった。
毎週末の練習試合には父兄に交じって、必ずおばあちゃんが見に来てくれていた。もらったグローブはずっと使い続けていて、ボロボロだったけど、手に良くなじんでいる。
試合が終わると、必ず「今日もよかったよ」って言ってくれるおばあちゃん。
ほとんど勝てなくて、ボロ負けの試合でも「今日もよかったよ」だった。
6月におばあちゃんは体調をちょっと崩して一時入院。お見舞いに行くと、「絶対に夏の大会は見に行くからね」と笑って言ってくれた。
(甲子園に行ければ、テレビで僕の姿をおばあちゃんに見てもらえる)
そう思って練習したけど、練習試合にほとんど勝てないまま7月を迎えた。
夏の県予選の日の明け方、おばあちゃんの夢を見た。
どうしてもおばあちゃんの目の前で勝つところを見せたいって思っていたからかもしれない。
バットとグローブをいつものように手入れして試合に向かった。
試合前に、キャプテンが「今日はとにかく試合を楽しもう!」と言ってチームのみんなで何度も何度も掛け声を大声で叫んだ。
1回戦、0対0のまま6回表、ノーアウト1塁で僕の打席になった。監督のサインは送りバント。三塁側にバントして思いっきり走ろうって決めていた。
相手投手が投げた速いボールをしっかり、バットに当てることができた。ボールは三塁側にうまく転がっていく。
僕は懸命に一塁へ走って
ヘッドスライディング!
あまりにも夢中で頭から突っ込んだ。
「セーフ!」
送りバントが内野安打になった。うれしかった。
なにしろ、内野安打でこんなに歓声を聞いたのは初めてだったから。
次の打者がヒットを打って、2塁ランナーも僕もホームを踏んだ2対0!ベンチではみんなが笑顔で迎えてくれた。ハイタッチしたり、グータッチしたり。
もし負けたら、僕らにとって最後の試合になるのはみんな分かっていたけど、この試合は本当に楽しかった。みんな楽しんでた。
9回裏、2対0。この回を守りきれば2回戦へ行ける。そう思って守備についた。チームのみんなもそう思っていたはず。それがみんなの体を固くしてしまった。
エラーと二つのフォアボールでノーアウト満塁に。
初球。
相手バッターが振り切ったボールが、外野へ大きく抜けていった。
僕は必死にボールを追いかけてホームに投げたけど、間に合わなかった。
2対3のサヨナラ負け・・・・・・。
でも涙は出なかった。僕なりにやれることはやった。
泣いてるやつもいたけど、どことなくみんなやり切ったって顔をしていた。
最後は本当に楽しく試合ができたから。
そして、球場の外へみんなで出て行き、応援してくれた父兄の前で一人ずつ大きな声で挨拶をする。
その中に母がいた。仕事を休んで、初めて試合を見に来てくれていた。
近くに行くと、母は泣いていた。
「今日朝方、おばあちゃんが亡くなったの」
えっ。
頭が真っ白になった。
そしてすぐに明け方、夢の中でおばあちゃんが言っていたことを思い出した。
「今までありがとうね、ありがとうね、ありがとうね......」っていう繰り返しの言葉。
なんでだよ、ありがとうって僕が言いたい言葉なのに。
サヨナラゲームよりきついさよならじゃん。
そう思ったとき、僕は、声をあげて泣いた――。
「今日も良かったよ」って言って欲しかった。
あのいつもの一言が今日も聞きたかったよ ――。















